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【第2回】 ISO 45001改訂における主な変更検討項目 ― Committee Draft段階の情報に基づく整理 ―

作成者: Nemko|Jun 2, 2026

前回(第1回)では、ISO 45001改訂の背景および全体的な検討状況について整理しました。

2回となる本稿では、ISO/TC 283における改訂作業の中で、現時点(2026年時点)で確認されている主な検討テーマについて、Committee DraftISO/CD)段階の公開情報を基に整理します。

なお、以下で取り上げる内容は、最終規格として確定した要求事項ではありません。

あくまで、改訂検討の方向性および論点を整理したものであり、今後のDIS(国際規格案)やFDIS段階で変更される可能性がある点にご留意ください。

 

1.全体構造(共通構造)に関する考え方

ISO 45001:2018は、ISO 9001ISO 14001と同様に、Annex SLISO/IEC Directivesに基づく共通構造)を採用しています。

改訂においても、この共通構造自体を大きく変更する方向性は示されていません。

一方で、ISO全体ではAnnex SLの表現や用語の整理が進められており、ISO 45001改訂版においても、

    • 用語の整合
    • 要求事項表現の明確化

が行われる可能性があります。

 

2.「組織の状況(4章)」に関する検討項目

1)外部・内部課題の扱いの見直し

現行ISO 45001では、組織の状況として外部および内部の課題を決定することが求められていますが、その深さや適用方法は組織に委ねられています。

改訂検討においては、

  • 組織を取り巻く社会的・環境的変化
  • 労働形態の変化

といった要素を、より直接的にOH&Sリスクと関連付けて捉える考え方が検討されています。

2)気候変動に伴うOH&Sリスク

CD段階の情報では、気候変動そのものを環境規格的に管理するのではなく、労働安全衛生上のリスクとして捉えるという整理が示されています。

例えば、

  • 高温環境での作業
  • 異常気象による事業継続への影響
  • 屋外作業者の健康リスク

などが、組織の状況やリスクアセスメントの中で考慮される対象として整理される方向性が示唆されています。

 

3.「リーダーシップおよび働く人の参画(5章)」に関する検討項目

1)トップマネジメントの関与の実効性

ISO 45001:2018では、トップマネジメントのリーダーシップが重視されていますが、実務上は形式的な関与にとどまるケースが指摘されてきました。

改訂においては、

  • 労働安全衛生方針
  • 組織文化
  • 働く人のウェルビーイング

といった要素に対して、トップマネジメントがどのように関与しているかを、より明確に捉える方向での整理が検討されています。

2)心理的健康・ウェルビーイングの位置付け

Committee Draftでは、ISO 45003(心理的健康およびウェルビーイングに関する指針)との関係性を踏まえ、心理的リスクを労働安全衛生マネジメントの対象として明確化する方向性が示されています。

これは、新たな個別施策を義務付けるものではなく、

  • ハラスメント
  • 過重労働
  • 職場ストレス

といった要素を、組織のリスク管理の枠組みの中でどのように把握・管理しているかを問う整理と理解することが適切です。

 

4.「計画(6章)」に関する検討項目

1)リスクおよび機会の扱いの拡張

現行規格では、OH&SリスクおよびOH&S機会の特定・評価が求められています。

改訂検討では、リスクの対象として、

  • 新しい働き方(リモートワーク等)
  • 外部委託・請負作業
  • 技術変化(デジタル化、AI導入等)

をより体系的に捉える考え方が検討されています。

2)変化管理(Change Management

組織の変更(業務変更、設備変更、組織再編等)に伴うOH&Sリスクの再評価についても、現行規格より明確な整理が行われる可能性があります。

これは、変更そのものを制限するものではなく、「変更時に安全衛生上の影響を検討しているか」というプロセスの確認に重点が置かれる方向性とされています。

 

5.「運用(8章)」に関する検討項目

1)サプライチェーンおよび外部提供者の管理

CD段階では、

  • 外部委託先
  • 請負業者
  • 派遣労働者

に関する労働安全衛生上の管理を、より明確に位置付ける方向性が示されています。

これは、組織が直接管理できないリスクをすべて統制することを求めるものではなく、影響力を有する範囲でどのような管理を行っているかを整理する考え方とされています。

2)新しい働き方への対応

ISO/CD 45008(リモートワークに関する指針)との関係を踏まえ、在宅勤務やハイブリッドワークに伴う安全衛生上の配慮が、マネジメントシステムの中でどのように捉えられているかが論点となっています。

 

6.「パフォーマンス評価(9章)」に関する検討項目

1)指標およびデータ活用

改訂では、

  • 労働災害件数などの結果指標
  • 教育実施状況、リスク是正状況などのプロセス指標

を組織がどのように活用しているかが、より重視される可能性があります。

単なるデータ収集ではなく、意思決定や改善に結びついているかが評価対象となる方向性です。

 

7.「改善(10章)」に関する考え方

改訂検討では、是正処置および継続的改善について、安全文化や行動変容につながっているかという観点が強調される可能性が示されています。

これは、新たな改善手法の導入を要求するものではなく、既存の改善プロセスが実際に機能しているかを問い直す整理と考えられます。

 

8.現時点での理解の整理

本稿で整理した検討項目は、Committee Draft段階で示されている論点および公開情報に基づくものです。

したがって、以下の点に留意が必要です。

    • 最終版の条文構成・文言は未確定
    • 新規要求事項の有無やレベルは今後変化する可能性がある
    • 移行期間や審査上の取扱いは、今後の公式通知を待つ必要がある

 

まとめ

ISO 45001の改訂に向けた検討では、新たな分野を追加するというより、労働安全衛生マネジメントの適用範囲と実効性を整理・明確化する方向性が示されています。

現時点で重要と整理できるのは、

    • 組織の状況とOH&Sリスクの関連付け
    • 心理的健康や新しい働き方への対応
    • 外部提供を含むリスク管理
    • データに基づく評価と改善

といった論点です。

次回(第3回)は、これらの改訂検討項目が、ISO 45001を運用する組織にどのような影響を与える可能性があるかについて、現時点で整理可能な範囲で解説します。