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ISO/FDIS 9001:2026はDISから何が変わったのか 第2回 DISからFDISへ―箇条別に見る改訂の主な方向性

作成者: Nemko|Aug 18, 2026

前回は、ISO/FDIS 9001:2026の改訂の背景や全体像について解説しました。

今回の改訂では、「品質文化(Quality Culture)」、「倫理的行動(Ethical Behaviour)」、「変更マネジメント(Change Management)」などが注目されています。 一方、改訂の基本構造はISO 9001:2015を維持しており、全面刷新ではなく、主要な追加事項と要求事項の明確化が中心です。

FDISは、DISに対して各国から提出されたコメントを処理した最終案です。 一見すると小さな文言の変更であっても、要求事項の対象または意図に影響する場合があるため、正式版発行後には逐条比較が必要です。

今回は、4章から10章までについて、FDISで確認すべき主な注目点と、実務上の留意事項を整理します。

 

  1. 今回の改訂は「全面刷新」ではなく「追加と明確化」が中心

FDISでは、2015年版の適用範囲および基本構造が維持されています。 一方、品質文化および倫理的行動などの明示的な追加事項もあるため、「表現の整理だけ」と評価するのは適切ではありません。

DISに対して各国から寄せられたコメントを踏まえ、以下のような見直しが行われています。

  • 要求事項の表現をより明確にする
  • 他のISOマネジメントシステム規格との整合性を高める
  • 解釈のばらつきを少なくする
  • 重複する表現を整理する

したがって、多くの組織でQMSを一から構築し直す必要はないと考えられますが、正式版発行後には、組織の状況に応じたギャップ分析と必要な対応が求められます。

4 組織の状況(Context of the Organization

4章では、組織の状況および利害関係者に関する基本要求を維持しつつ、改訂されたHSの共通テキストが反映されています。

また、ISO 9001:2015/Amd 1:2024で追加された気候変動に関する要求事項は、ISO/FDIS 9001:2026にも反映されています。 気候変動が組織のQMSに関連する課題かどうかを判断する要求は、2024年追補によって既に適用されています。

組織は、DXAI、サプライチェーン、地政学的状況、気候変動などを機械的に一覧へ追加するのではなく、自らの目的および戦略的方向性並びにQMSの意図した結果に影響する課題を決定する必要があります。

状況分析表またはSWOT分析は規格が指定する文書ではありません。 これらを使用する場合には、分析結果がQMSの適用範囲、リスクおよび機会、品質目標その他の計画へ適切に反映されているかを確認することが重要です。

重要なのは、特定の分析手法を採用することではなく、組織が関連する課題および利害関係者の要求事項を理解し、QMSへ反映していることです。

 

5 リーダーシップ(Leadership

公表されている主要改訂点の中で、特に注目されるのが5章です。

  • 品質文化(Quality Culture

FDISでは、トップマネジメントが品質文化を促進することが、リーダーシップおよびコミットメントに関する要求事項として明示されます。

「品質文化」について、規格が単一の評価方法を規定するわけではありません。 一般には、品質を重視する価値観および行動が、組織の日常業務および意思決定に反映されている状態として捉えることができます。

例えば、以下のような取組みは品質文化を構成する重要な要素と考えられます。

  • 品質目標を従業員が理解し、日常業務に反映している。
  • 改善提案が積極的に行われている。
  • 不適合、品質上の懸念または潜在的な問題を適時に報告できる環境が整備されている。
  • 部門間で品質に関する情報共有や相互連携が行われている。
  • 品質上の問題が発生した際に、原因究明と再発防止に組織全体で取り組んでいる。

品質文化の促進は新たに明示される要求事項ですが、特定の手順書、評価表または研修プログラムの作成が一律に求められるわけではありません。 組織は、自らの状況に応じて適切な方法を決定します。

  • 倫理的行動(Ethical Behaviour

近年、データ改ざん、検査記録の不正、法令違反などが、製品・サービスの品質だけでなく、組織への信頼を大きく損なう事例となっています。

FDISでは、トップマネジメントによる倫理的行動の促進および組織の管理下で働く人々の認識が、要求事項として明確化されます。

ただし、特定の倫理規程または内部通報制度を一律に要求するものではありません。 組織は、適用される法令および規制要求事項、顧客要求事項および自らのリスクに応じて、必要な仕組みを決定する必要があります。

6 計画(Planning

FDISでは、「リスクへの取組み」と「機会への取組み」が区分して整理されます。

これにより、望ましくない影響を防止または低減するための取組みと、望ましい影響を増大させるための取組みを、それぞれの性質に応じて計画することが明確になります。

機会の例としては、組織の状況に応じて、次のような事項が考えられます。

  • 新技術の導入
  • DXによる業務改善
  • 新規市場への展開

事業中断への対応と変更マネジメント

6章では、事業中断によってQMSの意図した結果が達成できなくなる可能性への対応が強化されるとともに、QMSの変更の計画に変更マネジメントの概念が反映されます。

事業中断として検討対象となり得る事象の例は、次のとおりです。

  • 自然災害、停電または通信障害
  • 重要設備またはITシステムの停止
  • 重要な供給者または外部委託先からの供給途絶
  • 重要な力量を有する要員の長期不在
  • サイバーインシデントその他の業務継続への影響

変更管理については、設備、工程、ITシステム、組織体制、要員または外部提供者などの変更がQMSおよび製品・サービスの適合に与える影響を、計画的に検討することが重要です。

例えば、設備更新または工程変更を行う場合には、次の事項を検討することが考えられます。これらは実務例であり、規格が特定の様式を要求するものではありません。

  • 設備更新や工程変更による品質への影響を評価しているか
  • 変更内容に応じて必要な教育・訓練を実施しているか
  • 手順書、作業標準書、記録等の関連文書を適切に更新しているか
  • 変更後の製品・サービスが要求事項を満たしていることを確認しているか

 

7 支援(Support

7章では、品質文化および倫理的行動に関する認識の追加、並びに文書化した情報に関するHS共通表現の反映が主な注目点です。 力量、コミュニケーションおよび組織の知識に関する基本的な考え方は維持されています。

組織の知識(Organizational Knowledge)は、改訂前からの要求事項です。近年、多くの組織では、次のような課題が顕在化しています。

  • ベテラン社員の退職
  • 技術者不足
  • 技術継承

これらの課題への対応として、個人の経験およびノウハウを組織の知識として維持し、必要な人が利用できる状態にすることは有効です。

ただし、すべての知識を文書化することが要求されているわけではありません。 必要な知識の性質、重要性および喪失リスクに応じて、教育、引継ぎ、データベース、標準化などの方法を選択します。

文書化した情報については、「維持する」「保持する」という表現を、目的に応じて「利用可能な状態にする」「証拠として利用可能な状態にする」というHS共通表現へ整理する方向が示されています。

 

8 運用(Operation

8章の運用管理に関する基本的な枠組みは維持されています。 公表されている主要改訂点からは、デジタル化または電子媒体の使用を新たに義務付ける要求は確認されていません。

紙、電子ファイル、クラウドサービスなど、情報の媒体にかかわらず、文書化した情報に関する要求事項を満たす必要があります。

したがって、今回の改訂を理由として、紙媒体から電子媒体へ移行することが求められるわけではありません。

組織は、自らが採用する媒体およびシステムに応じて、必要な情報が識別され、保護され、利用可能な状態となっていることを確実にします。

電子記録またはクラウドシステムを利用する場合、既存の文書化した情報の管理要求を満たすため、例えば次の事項を検討することができます。 これらは新たに追加される個別要求事項ではありません。

  • 情報の真正性(記録の信頼性・改ざん防止)
  • アクセス権限の管理
  • バージョン管理および変更履歴の管理
  • 必要な情報を必要なときに利用できる状態の維持
  • バックアップおよびデータの保護

 

9 パフォーマンス評価(Performance Evaluation

公表されている主要改訂点では、内部監査およびマネジメントレビューの基本要求に大幅な変更があるとは示されていません。

したがって、マネジメントレビューのインプットまたはアウトプットが新たに一律追加されると断定することは避け、正式版の条文を確認する必要があります。

一方、現行版においても、マネジメントレビューは、QMSの適切性、妥当性および有効性をトップマネジメントが評価し、必要な意思決定を行う重要なプロセスです。

次の事項は、2026年版で初めて追加されるものではありませんが、QMSを実効的に運用する上で引き続き重要です。

主な確認ポイントは以下のとおりです。

  • 必要なインプットが漏れなくレビューされているか
  • レビュー結果が改善活動や経営上の意思決定につながっているか
  • 前回のマネジメントレビューで決定した事項について、フォローアップおよび有効性の確認が行われているか
  • 必要な資源や改善事項について適切な意思決定が行われているか

これらの事項は、規格改訂の有無にかかわらず、マネジメントレビューの有効性を確認する上で重要な観点です。

 

箇条10 改善(Improvement

公表されている主要改訂点では、10章の基本的な改善要求に大幅な変更があるとは示されていません。

一方、品質文化、倫理的行動、リスクおよび機会、事業中断並びに変更管理に関する取組みは、QMSの改善と相互に関連します。

組織は、監視・測定、内部監査、マネジメントレビュー、不適合および是正処置などの結果を用いて、QMSの適切性、妥当性および有効性を継続的に改善します。

改善活動の主なインプットとして、例えば次の事項が考えられます。

  • 顧客満足の評価結果
  • 内部監査の結果
  • マネジメントレビューの結果
  • リスクおよび機会への対応状況
  • 品質目標の達成状況
  • 不適合および是正処置の結果

 

まとめ

FDISの内容を見ると、今回の改訂はISO 9001:2015の基本構造を維持しながら、主要な追加事項と要求事項の明確化を行う改訂です。

品質文化および倫理的行動は、単なる解説上のキーワードではなく、要求事項として明示される点に注意が必要です。 一方、規格が特定の手順、文書または評価方法を一律に指定するものではありません。

また、リスクと機会の区分、事業中断への対応、変更マネジメント、HS共通用語および文書化した情報の表現などが主な確認点となります。

認証取得組織にとって重要なのは、用語だけを置き換えることではなく、正式版の要求事項を確認し、自らのQMSに必要な変更を合理的に決定することです。

認証審査では、規格要求事項への適合性およびQMSの有効性を、組織の規模、活動、製品・サービスおよびリスクを踏まえ、公平かつ客観的な証拠に基づいて確認します。

本記事で示した実務例は、規格が特定の管理方法を要求することを意味しません。 各組織は、自らの状況に適した方法を決定する必要があります。

 

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