1. はじめに
気候変動は、もはや環境分野に限定された課題ではなく、企業経営そのものに影響を与える重要テーマとなっています。
異常気象の頻発、サプライチェーンの不安定化、エネルギーコストの変動、さらには規制要求の強化や投資家・顧客からの説明責任の高まりにより、企業活動を取り巻くリスクおよび機会の構造は大きく変化しています。
このような背景のもと、国際標準化機構(ISO)と国際認定フォーラム(IAF)は、2024年2月に「マネジメントシステム規格(MSS)に気候変動の考慮を加える」ための追補(各規格へのAmendmentおよび共通構造への反映)を公表しました。追補で追加された文言は、MSSの共通要求事項である4.1(組織の状況)と4.2(利害関係者のニーズ及び期待)に紐づけられ、気候変動が“見落とされないようにする”意図が明確化されています(後述)。 [ISO/IAF Joint Communiqué(2024-02-22)より。]
さらに、環境マネジメントシステム規格ISO 14001は、2026年4月15日にISO 14001:2026として改訂版が発行されました。
本稿では、これらの動向を踏まえ、気候変動がISOマネジメントシステムにおいてどのように位置付けられ、実務上どのような対応が求められるのかを整理します。
2. Annex SL追補における気候変動の位置付け
2026年時点での要点は、次のとおりです。
したがって今回の変更は、単に“新しい章や詳細要求が増えた”というよりも、既存の「組織の状況/利害関係者」の枠組みの中で、気候変動を確実に扱うことを明文化したものと捉えるのが適切です。
3. Annex SL追補の内容
追補で追加された文言は簡潔ですが、ポイントが明確です。
【対象条項】
【追加された文言(ISO/IAF Joint Communiquéで示された内容)】
4.1
『組織は、気候変動が関連する課題であるかどうかを決定しなければならない。』
4.2
『注記:関連する利害関係者は、気候変動に関する要求事項を有している可能性がある。』
(4.2の追加は“要求事項本文”ではなく“NOTE(注記)”として示されている点に留意)
【解釈上のポイント】
なお、本変更は、ISOおよびIAFにより、既存要求事項の明確化(clarification)と位置付けられています。
4. Annex SL構造との関係(なぜ影響範囲が大きいのか)
Annex SL(Harmonized Structure)は、ISOマネジメントシステム規格の共通基盤です。共通の章構成・用語・コア要求事項を整合させ、複数規格の統合運用(IMS)を行いやすくするための枠組みです(ISO/IEC Directives上の共通構造として運用)。
今回のポイントは、個別規格の“解釈ガイド”ではなく、共通要求事項(4.1/4.2)に直接関係する形で、気候変動を確実に検討させるメッセージが入ったことです。これにより、品質(ISO 9001)、環境(ISO 14001)、労働安全衛生(ISO 45001)など分野が異なっても、「組織の状況/利害関係者の検討の中で、気候変動の関連性判断を行う」という論点が共通化されます。
【今回の変更の特徴】
気候変動は個別規格ではなく、Annex SL自体に追加されています。
そのため、
という特徴を持ちます。
この点からも、今回の変更は特定分野の要求ではなく、共通構造の中で扱うべき事項の明確化であるといえます。
5. 気候変動要求の位置付け(Annex SLに基づく共通構造の適用)
気候変動に関する要求は、特定の規格において新たに追加されたものではなく、Annex SLに基づく共通構造の中で取り扱われる外部課題として整理されたものです。
Annex SLの追補により、気候変動は、以下の中で検討すべき対象として明示されました。
ここで重要なのは、“気候変動が常に重大課題である”と一律に決めつけることではなく、「自組織の意図した結果(マネジメントシステムの有効性)に照らして関連性を判断する」点です。ISO/IAFは、気候変動が各マネジメントシステムに与える影響は分野により異なるとも述べています(例:品質と労働安全衛生では影響の出方が異なる)。
各規格においては、この枠組みに基づき、気候変動がそれぞれの目的に応じて扱われます。
例えばISO14001では、環境マネジメントの観点から、
といった既存の要求事項の中で気候変動が考慮されることになります。
一方で、ISO9001やISO45001においては、それぞれの目的に応じて、
といった観点から整理されることが想定されます。
このように気候変動は、
という位置付けになります。
したがって重要なのは、規格間の違いではなく、共通構造の中でどのように扱われているかを理解すること
です。
6. 各規格における位置付けの違い
|
規格 |
主な影響 |
|
ISO9001 |
供給安定性、品質リスク、変更管理(供給制約・災害等による品質への影響) |
|
ISO14001 |
環境パフォーマンス、環境側面、リスク及び機会、環境目標(気候変動・資源効率等) |
|
ISO45001 |
作業環境(高温・災害等)、労働安全衛生リスク、緊急事態対応(極端気象による安全衛生影響) |
(注)上記は“想定例”であり、実際には事業特性、立地、サプライチェーン、利害関係者要求等に基づいて決定します。
7. 2026年時点の改訂状況
(注)発行時期は最終投票・承認状況に依存します。
8. 実務への影響
【最低限おさえるべきこと】
【関連すると判断した場合】
【審査の視点】
9. まとめ
Nemkoは、組織の実態に即した、活用できるマネジメントシステムのための審査を心掛けています。
マネジメントシステム規格の改正に関するお問い合わせ、マネジメントシステム認証に関するお問い合わせは、MS認証部japan@nemko.comまでお気軽にご連絡ください。