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変化に強いISOマネジメントシステム 第1回 人員構成が変化しても業務は継続できるか ― 人員構成の変化をISOマネジメントシステム全体の考え方で捉える

作成者: Nemko|Sep 24, 2026

序文

企業では、退職、異動、採用、配置転換、組織変更などによって、人員構成が変化します。

厚生労働省の「令和72025)年上半期雇用動向調査」では、入職率は8.9%、離職率は8.1%でした。人員の入れ替わりは、企業活動の中で継続的に発生している変化の一つです。

業務を担う人が変われば、その人が保有していた知識や経験だけでなく、判断、承認、設備操作、安全管理、法令対応、情報へのアクセスなどにも影響する可能性があります。

重要なのは、「その変化によって組織の何が影響を受けるのか」であり、これにはISOマネジメントシステムの考え方が役立ちます。ISOのマネジメントシステム規格では、役割と責任、リスクと機会、力量、運用、パフォーマンス評価、改善などを相互に関連する要素として管理します。そのため、人員構成の変化についても、新しい管理制度を一から設けるのではなく、現在運用しているマネジメントシステムの仕組みを使って影響を整理することができます。

本稿では、人員構成の変化という一つの経営上の変化を、ISOマネジメントシステム全体の考え方から捉えます。

 

1.人員構成の変化においては「業務」だけでなく「機能」を確認する

人員構成が変化しても、設備、製品、システム、手順書などが同じであれば、業務そのものは変わっていないように見えることがあります。

しかし、実際の業務は文書化された手順だけで成り立っているとは限りません。異常時の判断、過去の不適合への対応、顧客固有の要求、設備固有の注意事項、緊急時の連絡、システム設定など、経験を通じて蓄積された知識が業務を支えている場合があります。

そのため、異動や退職が予定されている場合には、担当者が担っていた判断、承認、連絡、専門知識、アクセス権限などを確認することが重要です。

この考え方は、多くのISOマネジメントシステム規格にある箇条5.3「組織の役割、責任及び権限」、箇条7.2「力量」と関係します。人員構成の変化を、単なる人事異動ではなく、マネジメントシステムを構成する役割や力量の変化として見ることで、引継ぎの対象をより明確にできます。

 

2.教育の実施ではなく、必要な力量が維持されているかを見る

新たに業務を担う人へ教育を行うことは重要ですが、教育を実施したことと、必要な業務を遂行できることは同じではありません。

業務によっては、手順を理解するだけでなく、異常時に対応する、適切に判断する、必要な場合に他部門へ確認するといった力量が求められます。

ISO 9001:2015では、箇条7.2「力量」に加え、箇条7.1.6「組織の知識」があります。人員構成の変化によって、製品・サービスの適合に必要な知識が失われないかという視点で確認することができます。

ここでISOを役立てる方法は、既存の力量管理と人員構成の変化を結び付けることです。新たに業務を担う人が必要な力量を備えているか、不足している知識は何か、一定期間の支援が必要かといった点を確認します。

重要なのは、新しい書類を増やすことではありません。既存の力量表、教育記録、業務手順、過去の不適合情報などを利用し、必要な業務を継続できる状態かを確認することです。

 

3.人員構成の変化をリスクの変化として見る

設備や作業方法が同じでも、それを扱う人の経験や知識が変われば、同じ条件とは限りません。

厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では、労働者の入れ替わりなどにより安全衛生に関する知識や経験が変化した場合も、事業場のリスクに変化が生じる可能性がある場面として示されています。

この考え方は、ISO 45001:2018の箇条6.1.2「危険源の特定並びにリスク及び機会の評価」や、箇条8.1.3「変更の管理」と関係します。

人員構成が変わるたびに、必ず同じ方法でリスクアセスメントをやり直すという意味ではありません。経験の少ない人が新たに作業を担う、緊急時対応を知る人が減る、設備異常を判断できる人が限られるといった変化が、安全上の条件に影響していないかを確認することが重要です。

環境管理でも同様です。ISO 14001:2026の箇条7.2「力量」、箇条8.1「運用の計画及び管理」、箇条8.2「緊急事態への準備及び対応」の観点から、環境測定、廃棄物管理、法令に基づく対応、緊急時対応などが人員構成の変化後も継続できるかを確認できます。

 

4.判断、承認、責任に空白をつくらない

人員構成が変化すると、作業を行う人だけでなく、判断や承認を行う人も変わります。

出荷の承認、設備停止の判断、顧客への回答、購買の承認、緊急時対応などについて、誰が担うのかが不明確になれば、業務が滞る可能性があります。

この点では、ISOマネジメントシステム規格に共通する箇条5.3「組織の役割、責任及び権限」が一つの確認軸になります。

人員構成の変化があった際に、組織図や職務分掌だけでなく、実際の承認ルート、代理者、緊急時の判断者まで確認することで、「仕事は引き継いだが判断できる人がいない」という状態を防ぎやすくなります。

ISOの仕組みを活用するとは、規格の箇条ごとに新しい対応を設けることではなく、既存の役割・権限管理を人員構成の変化に合わせて更新することです。

 

5.情報へのアクセスも人員構成と連動させる

人員構成の変化は、情報システムの管理とも密接に関係します。

異動や退職後も以前のシステムへのアクセス権限が残っている、新たに業務を担う人に必要な権限が付与されていない、管理者権限の引継ぎ先が決まっていないといった状態は、情報セキュリティだけでなく業務継続にも影響します。

ISO/IEC 27001:2022では、箇条5.3「組織の役割、責任及び権限」、箇条7.2「力量」に加え、附属書Aの管理策としてA.5.15「アクセス制御」、A.5.18「アクセス権」、A.6.5「雇用の終了又は変更後の責任」などが関係します。

人事上の異動や退職と、アクセス権限の変更を別々に処理するのではなく、同じ変更として連動させることで、対応漏れを防ぎやすくなります。

 

6AIを利用する業務でも役割と力量を見る

AIを業務で利用している場合、人員構成の変化によってAIの管理に必要な役割が失われていないかも確認する必要があります。

AIを操作できる人がいても、利用目的を理解する人、入力情報の取扱いを判断する人、出力結果を確認する人、問題が発生した際に対応を判断する人がいなければ、管理状態が変化している可能性があります。

ISO/IEC 42001:2023では、箇条5.3「役割、責任及び権限」、箇条6.1「リスク及び機会への取組み」、箇条7.2「力量」などが、人員構成の変化を考える際の確認軸になります。

AIについても、「組織として適切に利用・管理できる状態が維持されているか」という視点で確認することが重要です。

 

7ISOを使って変化を横断的に確認する

ISOマネジメントシステムは、人員構成の変化による影響を整理する際の確認軸として活用できます。

一人の異動でも、品質、安全、環境、情報セキュリティなど複数の分野へ影響することがあります。そのため、最初から規格ごとに分けて考えるのではなく、まず一つの経営上の変化として捉え、その後で関係する規格の視点を当てはめる方が実態を整理しやすくなります。

ISOの多くのマネジメントシステム規格ではHarmonized Structure(調和構造)が採用されているため、このような横断的な確認にも活用できます。

 

8.変更後の状態まで確認する

人員構成の変化は、引継ぎが完了した時点で終わりとは限りません。

変更後に、不適合や手直し、業務の遅れ、管理の未実施、ヒヤリ・ハット、アクセス権限の不備などが生じていないかを確認します。

ISOマネジメントシステムでは、箇条9「パフォーマンス評価」や箇条10「改善」の考え方を、この確認に活用できます。

問題が見られた場合には、新たに業務を担う人の経験だけを原因とするのではなく、知識の共有方法、力量確認、権限、要員配置、支援体制など、マネジメントシステム側の仕組みも見直します。

 

まとめ

人員構成の変化は、単なる人事上の出来事ではありません。

知識、力量、役割、責任、権限、安全、環境管理、情報へのアクセスなど、複数の管理要素へ影響する可能性があります。

ISOマネジメントシステムは、こうした変化への対応を具体化するために利用できます。

箇条5の役割と責任、箇条6のリスクと計画、箇条7の力量や資源、箇条8の運用、箇条9の評価、箇条10の改善という流れで一つの変化を見ることで、「何が影響を受けるのか」「何を維持する必要があるのか」「変更後に何を確認するのか」を整理できます。

ISOを活用するということは、規格対応のために手続を増やすことではありません。すでにあるマネジメントシステムを、組織に起きる変化を見落とさず、必要な対応につなげるための仕組みとして使うことです。

変化に強いマネジメントシステムとは、変化を避ける仕組みではありません。変化が生じたときに、その影響を把握し、必要な機能を維持し、結果を確認して次の改善につなげられる仕組みです。

 

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