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変化に強いISOマネジメントシステム 第4回 デジタル化で本当に業務は改善するのか ― デジタル化をISOマネジメントシステム全体の考え方で捉える

作成者: Nemko|Oct 6, 2026

序文

企業では、業務効率化、人手不足への対応、情報共有の迅速化などを目的として、紙文書の電子化、業務システムの導入、クラウドサービスの利用、データ連携、AIの活用などが進められています。

一方、デジタル技術を導入したことと、業務が改善したことは同じではありません。従来の業務手順をそのままシステムへ置き換えただけでは、入力作業や確認作業が増えたり、一部の業務だけが効率化され、前後の工程に負担が移ったりする場合があります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2026」では、日本企業におけるDXの成果は、データのデジタル化や業務効率化などでは比較的高い一方、企業価値創出につながる取組では低い状況が続いていることが示されています。また、AIについても導入は広がっているものの、利用目的や効果は業務効率化・迅速化が中心とされています。

つまり、デジタル化そのものを目的とするのではなく、「何を改善するためにデジタル技術を使うのか」を明確にすることが重要です。

本稿では、デジタル化という業務上の変化を、ISOマネジメントシステムの考え方から捉えます。

 

1.「デジタル化したか」ではなく「業務がどう変わるか」を見る

紙の記録を電子化する、表計算ソフトで管理していた情報を専用システムへ移す、承認を電子ワークフローへ変更するなど、デジタル化にはさまざまな形があります。

しかし、従来の手続をそのままシステムへ置き換えただけでは、業務上の問題まで解消されるとは限りません。

複数の担当者が同じ情報を別々に入力している、確認や承認が必要以上に多い、同じデータを複数のシステムで管理しているといった状態をそのままデジタル化すると、非効率な業務がシステム上に残る場合があります。

ISO 9001:2015の箇条4.4「品質マネジメントシステム及びそのプロセス」では、必要なプロセスとその相互作用を明確にする考え方が示されています。

デジタル化を検討するときには、最初にシステムを選ぶのではなく、現在の業務について、何を入力し、誰が判断し、どこへ情報を渡し、どのような結果を得ているのかを確認することが重要です。

デジタル化は、従来の業務をそのまま再現する機会ではなく、業務の流れそのものを見直す機会として考えることができます。

 

2.最初に「何を改善したいのか」を明確にする

デジタル化の目的が「紙をなくす」「システムを導入する」「AIを使う」といった手段だけになっていると、導入後の効果を判断することが難しくなります。

処理時間を短縮したいのか、入力ミスを減らしたいのか、情報を一元化したいのか、状況をリアルタイムで把握したいのかによって、必要となる仕組みは異なります。

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」では、データやデジタル技術の活用そのものではなく、それらを活用した経営ビジョンやビジネスモデル、DX戦略を明確にする考え方が示されています。データ活用、人材、サイバーセキュリティなどもDX経営を支える要素として位置付けられています。

この考え方は、個々の業務のデジタル化にも当てはめることができます。

ISO 9001:2015の箇条6.3「変更の計画」の観点からも、変更の目的、影響、必要な資源などを考慮することが重要です。

「何を導入するか」よりも先に、「導入によって何を変えたいのか」を明確にすることが、デジタル化を改善につなげる出発点になります。

 

3.データが正しくなければデジタル化しても判断は良くならない

デジタル化によって、多くの情報を短時間で集計・分析できるようになります。

しかし、元になるデータが正しくなければ、処理速度が上がっても適切な判断にはつながりません。

同じ製品や顧客が異なる名称で登録されている、入力する人によって分類方法が異なる、必要な項目が入力されていないといった状態では、集計結果や分析結果の信頼性にも影響します。

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」でも、企業価値向上におけるデータ活用・連携の重要性が強調されています。

ISO 9001:2015では、箇条7.5「文書化した情報」や箇条9.1「監視、測定、分析及び評価」などが、業務で使用する情報や結果の評価と関係します。

デジタル化では、「データがあるか」だけでなく、そのデータが何を意味し、どこから取得され、判断に使用できる状態になっているかを確認することが重要です。

システム導入前にデータの定義や入力方法を整理することも、デジタル化を業務改善につなげるための重要な作業になります。

 

4.一部の効率化が全体の改善になるとは限らない

一つの業務をデジタル化すると、その作業時間が短縮されることがあります。

しかし、前後の工程まで含めて見ると、必ずしも全体が効率化されているとは限りません。

入力作業を簡略化した結果、後工程で情報を修正する作業が増えることがあります。承認を電子化しても、従来の承認段階をすべて残せば、処理時間が十分に短縮されない場合があります。また、部門ごとに異なるシステムを導入すると、部門内では便利になっても、部門間でデータを転記する作業が残ることがあります。

IPAの「DX動向2025」では、日本企業のDXについて、社内の業務効率化を中心とする「内向き」の取組や、個別業務の改善にとどまる「部分最適」の傾向が指摘されています。

ISO 9001:2015の箇条4.4では、プロセス間の相互作用を考えることが求められています。

そのため、デジタル化の効果を見るときも、一つの作業時間だけではなく、その前後を含めた業務全体にどのような変化が生じたかを確認することが重要です。

 

5.システムが使えない場合も業務を考える

業務をデジタル化すると、システムが利用できることを前提として仕事が組み立てられるようになります。

これは利便性を高める一方で、システム障害、通信障害、クラウドサービスの停止、端末の故障などが、直接業務停止につながる可能性も意味します。

紙と電子を併用していた時期には継続できた業務でも、完全にデジタル化した後は、システムを利用できなければ処理できなくなる場合があります。

そのため、デジタル化では通常時の使いやすさだけでなく、利用できない場合にどの業務が止まり、どの程度の時間なら影響を許容できるのかを確認することが重要です。

ISO/IEC 27001:2022では、箇条6.1「リスク及び機会に対処する活動」、箇条8.1「運用の計画及び管理」に加え、附属書AのA.5.29「事業の中断・阻害時の情報セキュリティ」、A.8.13「情報のバックアップ」、A.8.14「情報処理施設の冗長性」などが関係します。

デジタル化によって新しく生まれた「システムへの依存」も、業務上の条件の変化として捉える必要があります。

 

6.AIによる効率化では「判断をどこまで任せるか」を明確にする

生成AIを含むAIの利用は、文書作成、情報整理、問い合わせ対応、分析、検査などへ広がっています。

IPAの「DX動向2026」では、AIの導入が広がり、多くの企業で一定の効果が認識されている一方、期待どおり又は期待以上の効果を得ている割合は限定的であり、活用の中心も業務効率化・迅速化であることが報告されています。

AIを利用する場合には、処理時間の短縮だけでなく、どの範囲までAIに任せるのかを明確にすることが重要です。

AIが作成した内容をそのまま使用するのか、人が確認してから使用するのかによって、必要な管理は異なります。品質や安全、法令、顧客要求に関係する判断であれば、AIの出力をどのように確認するかも考える必要があります。

ISO/IEC 42001:2023では、箇条5.3「組織の役割、責任及び権限」、箇条6.1「リスク及び機会への取組み」、箇条7.2「力量」などが、AIを組織として管理する際の確認軸になります。

AIを導入することではなく、AIを利用した後も必要な判断や管理が機能していることが重要です。

 

7.成果は「システムの利用状況」だけで判断しない

デジタル化後には、利用者数、アクセス数、電子化率などを把握することができます。

しかし、それらはシステムが利用されていることを示す情報であり、必ずしも業務が改善したことを示すものではありません。

デジタル化の目的が処理時間の短縮であれば、変更前後の処理時間を見る必要があります。不適合や入力ミスの削減が目的であれば、その発生状況を確認する必要があります。情報共有の改善が目的であれば、必要な情報を適切な時点で利用できるようになったかを見る必要があります。

ISO 9001:2015の箇条9.1「監視、測定、分析及び評価」の考え方を利用することで、変更の目的に合った結果を確認できます。

デジタル化の成果を「導入した」「利用している」で終わらせず、業務上の結果がどう変化したかを見ることが重要です。

 

まとめ

デジタル化は、業務を改善するための有効な手段ですが、デジタル技術を導入しただけで業務が改善するとは限りません。

IPAの調査でも、日本企業のDXでは業務効率化などで成果が見られる一方、企業価値創出につながる取組への展開には課題が残っていることが示されています。

重要なのは、現在の業務をそのままシステムへ置き換えることではありません。何を改善するのかを明確にし、業務の流れ、データ、前後工程、システムへの依存、AIを利用する場合の判断方法などを確認することです。

ISOマネジメントシステムには、プロセス、変更の計画、リスク、運用、情報、パフォーマンス評価など、デジタル化を業務改善につなげる際に利用できる考え方があります。

デジタル化によって変わるのは、記録媒体や使用するツールだけではありません。仕事の流れ、情報の扱い方、判断方法、他の業務とのつながりも変わります。

デジタル化では、新しい技術を導入すること自体ではなく、導入目的を明確にし、その結果として業務がどのように変化したかを確認することが重要です。

 

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