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高齢化時代に求められるISOマネジメントシステム 第3回 高齢化と労働安全衛生マネジメント

作成者: Nemko|Sep 1, 2026

序文

高年齢者の就業が広がる中、企業には、年齢にかかわらず安全かつ健康に働ける職場環境を整えることが求められています。厚生労働省によると、休業4日以上の労働災害による死傷者のうち、60歳以上の労働者が占める割合は増加傾向にあります。ただし、労働災害のリスクは年齢だけで決まるものではなく、作業内容、作業環境、勤務形態、健康状態及び体力などを踏まえて評価する必要があります。

厚生労働省は2026210日、改正後の労働安全衛生法第62条の22項に基づく「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公示しました。この指針は202641日から適用され、厚生労働省の資料では「エイジフレンドリー指針」とも表記されています。安全衛生管理体制の確立、リスクアセスメント、職場環境の改善、作業管理、健康や体力の状況に応じた対応など、事業者が講ずるよう努めるべき措置が示されています。

ISO 45001:2018は、働く人の労働に関係する負傷及び疾病を防止し、安全で健康的な職場を提供するための労働安全衛生マネジメントシステム規格です。特定の年齢層に一律の設備、勤務又は配置を求めるものではなく、組織が危険源を特定し、労働安全衛生リスクを評価し、必要な管理策を実施して継続的に改善するための枠組みを示しています。

 

年齢だけで危険性を判断しない

加齢に伴い、筋力、バランス能力、敏捷性、持久力又は感覚機能が変化する場合があります。一方、健康や体力、業務経験には個人差があります。そのため、年齢のみを基準として、就業能力や危険性を一律に判断することは適切ではありません。

重要なのは、実際の作業と働く人の状況との関係を確認することです。床面の段差や滑りやすさ、照度、警報や表示の認識しやすさ、重量物の取扱い、不自然な姿勢、長時間の立位作業、夜間勤務及び暑熱環境などを確認し、具体的な危険源と負担を評価します。

対策を本人の注意力や自己管理だけに依存させるのではなく、危険源の除去、設備の改善、補助機器の導入、作業方法や配置の見直し、作業時間と休憩の調整などを組み合わせることが重要です。

 

リスクアセスメントを職場改善へつなげる

厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」では、作業内容、作業環境、過去の災害やヒヤリ・ハットなどを基に、高年齢者の身体機能等の変化に関連するリスクを把握し、優先順位を付けて対策する考え方が示されています。

重要なのは、危険源を列挙するだけでなく、実際の作業でどのような負担や事故の可能性があるかを具体的に確認することです。評価結果は、設備、作業手順、作業配置及び勤務体制などの改善へ反映します。

また、対策は年齢だけを基準に一律に決めるのではなく、業務の特性、作業条件及び本人の状況を踏まえて検討します。実施後は、想定した効果が得られているかを確認し、必要に応じて見直します。

リスクアセスメントは、評価、対策、確認及び改善を継続して行う仕組みとして運用することが重要です。

 

管理策の優先順位を考える

注意喚起、教育及び個人用保護具は必要な対策となる場合がありますが、それだけでは十分なリスク低減につながらないことがあります。

ISO 45001:2018では、危険源の除去、危険性の低い方法への代替、工学的対策及び作業の再編成、管理的対策、個人用保護具という順序を踏まえて、管理策を検討する考え方が示されています。

高年齢労働者本人へ注意を促すだけでなく、無理な動作や判断ミスが生じにくい設備、作業環境及び業務の進め方を整えることが重要です。事故の原因を本人の年齢や注意力だけに求めるのではなく、設備、作業手順、人員配置及び勤務体制を含めて確認する必要があります。

 

変更による新たな危険源を確認する

職場改善のために実施した対策が、新たな危険源や作業負担を生じさせる可能性があります。例えば、転倒防止用のマットがつまずきにつながる、補助装置が作業条件に合わず十分に利用されない、冷却設備の騒音によって警告音を認識しにくくなるといった状況が考えられます。

設備や作業方法を変更する際には、導入前に安全衛生上の影響を確認するとともに、導入後の使用状況や作業への影響を評価することが重要です。労働災害の発生状況だけでなく、ヒヤリ・ハット、作業負担、補助装置の利用状況、作業観察及び働く人の意見などを確認し、新たな危険源や負担が生じていないかを見直す必要があります。

 

働く人の協議及び参加

実際の作業負担や危険の兆候を把握する上で、現場で働く人の意見は重要な情報となります。高年齢労働者を含む働く人が、作業上の不安、体調の変化、設備の使いにくさ及び改善提案を表明できる機会を設け、その内容を危険源の特定や対策の検討へ反映することが重要です。

経営層による方針の明確化に加え、安全衛生委員会などの場、日常的な報告経路、面談及び改善提案制度を活用し、意見を述べたことによって不利益を受けない環境を整える必要があります。

ただし、すべての高年齢労働者に同じ意見や要望があるわけではありません。年齢層を一つの集団として扱わず、実際の作業条件と本人の状況に基づいて確認することが重要です。

 

健康情報を適切に取り扱う

安全確保のために健康や体力の状況を確認する場合でも、本人の状況と業務との関係を検討せず、一律の配置制限や不利益な取扱いに結び付けることは適切ではありません。医師の意見や本人の状況を踏まえ、必要に応じて作業内容、勤務時間、設備又は人員配置を検討します。

健康診断の結果や病歴などには、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当する情報が含まれます。事業者は、利用目的、取扱者、共有範囲及び管理方法を明確にし、安全上必要な範囲で取り扱う必要があります。

厚生労働省は、労働者の心身の状態に関する情報について、取扱規程を定め、利用目的や適正な管理方法を明確にする考え方を示しています。安全上の配慮とプライバシー保護を両立させることが重要です。

 

法令及び指針の変更を運用へ反映する

202641日から、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理その他の必要な措置を講ずることが、事業者の努力義務となりました。

ISO 45001を運用する組織では、法令及び公的指針の変更を把握するだけでなく、自社に適用される内容を確認し、危険源の特定、リスク評価、運用管理、教育及び監視へ反映することが重要です。

努力義務であることを理由に一律に対応を省略するのではなく、自社の業務、作業環境、高年齢労働者の就労状況及び既存の対策を確認し、必要な措置を判断します。その結果と判断理由を、既存の安全衛生管理の仕組みの中で管理することが適切です。

 

監視、評価及び継続的改善

実施した対策の効果を確認する際には、労働災害の件数だけでなく、ヒヤリ・ハット、作業負担、設備の利用状況及び働く人の意見なども確認することが重要です。災害の種類、作業別の傾向、休業日数、ヒヤリ・ハット、暑熱環境での体調不良、作業時間、補助装置の利用状況及び改善提案など、組織の危険源と対策に応じた情報を確認します。

災害が発生していなくても、特定の人への負担集中、補助装置の未使用、作業変更による新たな負担が生じている可能性があります。そのため、数値情報だけでなく、作業観察、面談及び働く人の意見を組み合わせて評価することが重要です。

確認した情報は、設備、作業方法、人員配置、勤務体制及び教育の見直しへつなげます。高年齢労働者向けのチェックリストを追加する場合も、年齢だけで機械的に評価するのではなく、既存のリスクアセスメントが実際の作業条件と身体的負担を捉えているかを確認する必要があります。

 

まとめ

高年齢労働者の安全確保では、年齢だけで就業能力や危険性を判断せず、実際の作業内容、作業環境、勤務形態、健康状態及び体力を踏まえてリスクを評価することが重要です。

対策は、本人の注意力や自己管理だけに依存せず、危険源の除去、設備や作業環境の改善、作業方法、人員配置、勤務体制及び教育を組み合わせて検討します。また、職場改善のために実施した対策が、新たな危険源や作業負担を生じさせる可能性にも留意する必要があります。

実施した対策の効果を確認する際には、労働災害の件数だけでなく、ヒヤリ・ハット、作業負担、設備や補助装置の利用状況、作業観察及び働く人の意見なども確認することが重要です。期待した効果が得られていない場合や、新たな危険が確認された場合には、対策を見直します。

ISO 45001の枠組みを活用することで、法令及び指針の把握、危険源の特定、リスク評価、働く人の参加、健康情報の適切な取扱い、対策の評価及び継続的改善を関連付けて管理できます。

高齢化時代の労働安全衛生マネジメントで重要なのは、高年齢労働者だけを対象とした一律の対策を増やすことではありません。多様な働く人が安全かつ健康に働けるよう、実際の作業条件に基づいて職場環境と業務の進め方を継続的に見直すことです。

 

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