1. AI活用は「導入」から「説明責任」の段階へ
生成AI、AIによる需要予測、画像検査、採用支援、顧客対応チャットボット、製品へのAI組込みなど、AIの活用は多くの企業で現実的なテーマとなっています。
一方で、AIの利用が広がるほど、「そのAIは安全か」「判断の根拠を説明できるか」「人による監督はあるか」「誤った判断が起きた場合に誰が責任を持つのか」という問いも重要になります。
AIは便利な技術であると同時に、企業の信頼性、法令対応、リスク管理に直結する経営課題になりつつあります。
2/ EU AI ActはEUだけの問題ではありません
EUで成立したAI規制であるEU AI Act(Regulation (EU) 2024/1689)は、日本企業にとっても重要です。
「EUの法律だから、日本国内の企業には関係ない」と考えるのは正確ではありません。 EU AI Actは、EU域内でAIシステムを上市又はサービス提供する事業者だけでなく、EU域外の事業者であっても、AIシステムの出力がEUで使用される場合などに適用され得る枠組みを定めています。
つまり、日本国内でAIを開発・運用していても、そのAIがEU市場、EU顧客、EU子会社、EU利用者に関係する場合には、影響を受ける可能性があります。
3. 日本企業が注意すべき代表的なケース
たとえば、次のような企業はEU AI Actとの関係を確認する必要があります。
- EU向けにAI搭載製品を販売している企業
- EU子会社やEU顧客にAIサービスを提供している企業
- 日本国内でAI処理を行い、その判定結果やレポートをEU側で利用している企業
- 採用、人事評価、教育、信用評価、保険、重要インフラ、医療、安全関連製品などにAIを利用している企業
- チャットボット、生成AI、合成画像・音声・動画・テキストをEU向けに提供している企業
特に、EU向けの製品・サービス、海外子会社、グローバル顧客、海外サプライチェーンを持つ企業では、AIの利用状況を早期に整理しておくことが重要です。
4. EU AI Actはリスクベースの規制です
EU AI Actは、AIを一律に禁止する規制ではありません。AIの利用目的や影響度に応じて、禁止されるAI、高リスクAI、透明性義務の対象となるAI、汎用AIモデルなどに分類し、それぞれに応じた義務を定めています。
日本企業にとって重要なのは、「AIを使っているかどうか」だけではありません。
確認すべきなのは、AIの利用目的、AIの出力が使われる地域、自社の役割、EU顧客との関係、製品法令との関係です。
たとえば、AIを日本国内の社内業務だけで利用している場合、EU AI Actの直接適用を受ける可能性は限定的です。 しかし、そのAIの出力がEUの顧客、EU子会社、EU利用者に提供される場合、又はEU向け製品やサービスに組み込まれる場合には、適用可能性を確認する必要があります。
5. 自社の立場を確認することが第一歩です
EU AI Actでは、AIを提供する側であるProvider、AIを利用する側であるDeployerなど、事業者の役割が重要になります。
AIを自社ブランドで提供する企業はProviderに該当し得ます。一方、他社が提供するAIを業務上利用する企業はDeployerに該当し得ます。 自社がどの立場にあるかによって、求められる対応は変わります。
また、AIを組み込んだ製品をEU市場に投入する場合、製品安全、CEマーキング、適合性評価との関係も確認が必要になる可能性があります。
6. まず必要なのはAIの棚卸しです
日本企業が最初に取り組むべきことは、AIの棚卸しです。
- どの部門でAIを使っているのか?
- 何の目的で使っているのか?
- AIの出力は誰が利用しているのか?
- EUの顧客、子会社、利用者に関係しているのか?
- 人の権利、安全、雇用、信用、医療、教育などに影響する可能性があるのか?
- 生成AIの利用ルールや出力管理は整備されているのか?
これらを把握しなければ、自社がどのようなAIリスクを持っているのかを説明することはできません。
7. ISO/IEC 42001はAIガバナンスの有効な土台になります
このようなAIガバナンスを組織的に整備するための有効な枠組みが、ISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム)です。
ISO/IEC 42001は、AIシステムを開発、提供又は利用する組織が、AIに関するマネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するための国際規格です。
ISO/IEC 42001認証は、EU AI Actへの法的適合を自動的に保証するものではありません。 しかし、AIに関する責任体制、リスク評価、影響評価、データ管理、透明性、人による監督、継続的改善を組織的に管理するための有効な基盤になります。
8. AI活用は「信頼される仕組み」とセットで考える時代へ
AIを活用する企業に求められるのは、「AIを導入した」という事実だけではありません。
これからは、「AIを適切に管理している」「リスクを把握している」「必要な説明ができる」「継続的に改善している」と示せることが重要になります。
今後、EU取引先、海外顧客、投資家、監査部門、法務部門から、AIガバナンスに関する説明を求められる場面は増えていくと考えられます。
Nemko Japanでは、第三者認証機関として、ISO/IEC 42001認証およびAI Trust関連サービスに関するご相談を承っています。
EU AI Actへの対応可能性の確認、自社AIの棚卸し、AIリスクアセスメント、AIシステムインパクトアセスメント、ISO/IEC 42001認証に向けた準備状況の確認など、AIガバナンスの第一歩からご相談いただけます。
AI活用は、スピードだけでなく、信頼性が競争力になります。
自社のAI活用が説明可能な状態になっているか、いま確認することが重要です。
ご相談は、Nemko Japan MS認証部 (japan@nemko.com)までご連絡ください。