ISO 9001は、品質マネジメントシステム(QMS)に関する国際規格として世界中で広く採用されており、製品・サービスの品質保証および継続的改善の枠組みとして活用されています。現行版であるISO 9001:2015の発行から一定期間が経過したことを受け、ISOにおいて改訂作業が進められています。ISOの公式情報では、ISO 9001:2015を置き換える新しい版の発行予定は「2026年9月」と示されています。
本シリーズ(全5回)では、現時点で公表されている公式情報およびDIS(Draft International Standard:国際規格案)段階の動向を踏まえ、ISO 9001改訂に関する情報を整理します。なお、規格の内容および移行に関する取り扱いは最終確定前であり、今後変更される可能性がある点にご留意ください。
1.ISO規格の見直しの仕組み
ISOの国際規格(International Standard)は、発行後も有効性が評価され、Systematic Review(系統的レビュー)を通じて見直しが行われます。ISOの公式ガイダンスでは、規格は発行後「少なくとも5年ごと」にレビューされ、必要に応じて改訂、維持、撤回等の判断が行われる旨が示されています。
ISO9001についても、ISO/TC176(品質マネジメントおよび品質保証に関する技術委員会)において定期的なレビューが実施されており、現行の2015年版については改訂の必要性が認められ、次期版の開発が進められています。
2.ISO9001改訂の背景
今回の改訂は単一要因ではなく、複数の環境変化や利用状況の評価を踏まえて検討されています。一般に論点として挙げられるのは、次の事項です。
(1)社会および事業環境の変化
ISO9001:2015発行以降、デジタル技術の進展、業務形態の多様化、グローバルサプライチェーンの拡大など、組織を取り巻く環境は大きく変化しています。これらの変化に対して、品質マネジメントシステムが適切に対応できているかが検討の対象となっています。
(2)品質マネジメントの役割の拡大
品質マネジメントは従来、製品・サービスの要求事項への適合を確保することを主目的としてきましたが、現在では顧客満足の向上、リスク管理、持続可能性への配慮など、より広い経営課題との関係が指摘されています。
このような背景を踏まえ、QMSの適用範囲や役割についても見直しの必要性が検討されています。
(3)利用者からのフィードバック
ISOでは、規格利用者を対象とした調査(ユーザーサーベイ)を通じて、規格の有効性や課題の把握を行っています。ISO9001に関しては、以下のような意見が報告されています。
- 実務への適用が難しい場合がある
- 文書化が過度に重視される傾向がある
- 組織によっては形式的な運用となっている
これらの指摘は、規格の解釈および運用の在り方にも関係するものであり、改訂検討の参考情報として取り扱われています。
(4)他のマネジメントシステム規格との整合
ISOのマネジメントシステム規格は、共通構造(いわゆるハイレベルストラクチャ:HLS)に基づいて構成されています。近年、この共通構造自体の見直しが行われており、ISO9001もこれに整合させる必要があります。
そのため、今回の改訂では、他の規格(例:ISO14001、ISO45001等)との整合性確保も重要な検討事項となっています。
(5)気候変動に関する考慮の明確化
SO 9001:2015に対して「気候行動(Climate action)に関する変更」を示す追補(ISO 9001:2015/Amd 1:2024)が2024年2月に発行されています。新しい版の検討においても、この追補を前提とした整合が想定されます。
3.改訂プロセスと現時点の状況 (2026-03-23時点)
ISO規格の改訂は、複数の段階を経て進められます。一般的な流れは以下の通りです。
- NP(新業務項目提案)
- WD(作業原案)
- CD(委員会原案)
- DIS(国際規格案)
- FDIS(最終国際規格案)
- 発行
ISO/TC 176/SC 2の公表情報によれば、ISO/DIS 9001は投票(ballot)に付され、その投票は2025年11月19日に締め切られ、承認率97%で承認された旨が示されています。
4.発行時期および移行に関する一般的な考え方
発行後の認証制度上の移行期間については、過去の改訂(例:2008年度版から2015年度版)で一定の移行期間が設定された実績がありますが、次回改訂における移行期間の年数や期限は、現時点でISO 9001向けに確定した公式文書として提示されているとは確認できません。
また、国際的な認定の枠組みに関しては、IAFが2026年1月1日付で運用停止となり、現行情報はGlobal Accreditation Cooperation Incorporated(以下、Global Accreditation Cooperation)を参照する旨がIAF公式サイトで示されています。移行に関する国際的な取り扱いは、今後Global Accreditation Cooperation等の発信情報、および国内の認定機関・認証機関の通知に基づいて確認することが重要です。
5.現時点における留意点
ISO9001の新しい版は現時点で確定していないため、以下の点に留意する必要があります。
- DISは確定版ではなく、今後のコメント解決および次段階で条文が変更される可能性があります。
- 移行期間および認証制度上の詳細は、今後の公式通知を確認する必要があります。
したがって、現段階では、準備を開始するための情報収集と、現行QMSの実効性点検(形式運用の排除)が有効です。
まとめ
ISO9001の改訂は、ISO/TC176において正式に進められており、現在はDIS段階を中心とした検討が行われています。今回の改訂は、社会環境の変化、品質マネジメントの役割の拡大、利用者からのフィードバック等を背景として実施されているものです。
現時点では最終的な要求事項は確定していませんが、リスクへの対応、データ活用、サプライチェーン管理、マネジメントの関与といった領域が重要な検討対象となっています。
今後、FDISおよび正式発行に向けて内容が確定していくため、継続的な情報収集が重要となります。
次回(第2回)は、ISO9001の新しい版における主な変更検討項目について、DIS情報に基づき整理します。
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