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    Jun 16, 2026

    【第2回】 気候変動要求にどう対応するか ― ISO9001・ISO14001・ISO45001における実務対応のポイント ―

    1. はじめに

    1回では、Annex SL追補(気候変動の考慮に関する追補)およびISO 14001:2026の動向を踏まえ、気候変動がISOマネジメントシステム規格において共通の外部課題として位置付けられたことを整理しました。

    20242月に公表されたISO/IAF Joint Communiquéでは、マネジメントシステム規格(MSS)において、気候変動を「組織の状況(4.1)」および「利害関係者のニーズ及び期待(4.2)」の文脈で確実に考慮するための追加(Climate Action Amendments)が示されました。ここでISOおよびIAFは、今回の追加は要求の意図そのものを変えるものではなく、従来から求められている外部課題・利害関係者要求の検討の中で、気候変動を見落とさないよう明確化するものである旨を強調しています(2024-02-22)。

    本稿では、この前提を踏まえ、組織としての対応方法を、実務プロセスおよび規格別の観点から整理します。


    2. 実務対応の基本的な考え方

    気候変動への対応は、新たな管理体系を別建てで導入することではなく、既存のマネジメントシステムの中で扱うことが求められます。

    したがって、以下の既存プロセスの中で、気候変動を「検討し、判断し、説明できる状態」に整えることが基本となります。

    • 組織の状況の分析(4.1
    • 利害関係者の把握(4.2
    • リスク及び機会の特定(6.1
    • マネジメントへの反映(方針、目標、計画、運用管理 等)

    重要なのは、「気候変動への対応策を必ず実施せよ」という一律の義務が追加されたのではなく、「関連する課題かどうかを決定する(4.1)」「利害関係者要求として気候変動要求が存在し得ることを踏まえて確認する(4.2)」という判断プロセスの明確化である点です。


    3. 全規格共通の対応ステップ

    • 組織の状況の見直し(4.1)
    • 利害関係者の要求の確認(4.2)
    • リスク及び機会の特定(6.1)
    • マネジメントへの反映(必要に応じて)

    気候変動が自組織にとって「関連する課題」かどうかを、事業目的と意図した結果に照らして判断します。

    【検討観点】(例)

    • 事業への影響(操業、物流、BCP、拠点立地、設備保全 等)
    • 供給、コスト、市場動向(原材料調達、エネルギー、物流制約 等)
    • 方針(品質方針/環境方針/OH&S方針 等)
    • 目標、計画(目標設定、達成計画、KPI、責任と権限 等)
    • 運用プロセス(設計・購買・外注・保全・緊急事態対応 等)
    • 管理方法(監視測定、力量、内部監査、マネジメントレビュー 等)

    外部環境の変化(法規制・政策動向、顧客要求、社会的要請 等)

    利害関係者が、気候変動に関連する要求事項・期待を持つ可能性を踏まえ、確認・更新のプロセスを整備します。

    【対象】(例)

    • 顧客(調達基準、サプライヤ要求、情報開示要求 等)
    • 規制当局・行政(法令、条例、届出、報告要求 等)
    • サプライチェーン(供給条件、共同目標、物流制約 等)
    • 投資家・金融機関(リスク情報、開示、ガバナンス要求 等)
    • 投資家・金融機関(リスク情報、開示、ガバナンス要求 等)

    4.14.2の結果を踏まえ、既存のリスク及び機会の枠組みに統合します。

    【例】

    • リスク:供給不安定、操業停止、コスト増、納期遅延、労働災害リスク上昇
    • 機会:代替材料・省エネ技術、設計変更、レジリエンス強化、新市場対応

    判断結果に応じて、既存の仕組みのどこに反映するかを決めます

    【反映先(例)】

    文書化のポイントは「気候変動を検討した事実」ではなく、「なぜ関連/非関連と判断したのか」「関連する場合、どのプロセスにどう組み込んだのか」を説明できることです。


    4. ISO14001における対応(環境マネジメント)

    ISO 14001では、気候変動は環境マネジメントの枠組みの中で扱われます。

    【主な対応領域】

    • 環境側面との関連付け(直接・間接)
    • 環境影響評価と管理(運用管理、緊急事態への準備及び対応 等)
    • ライフサイクルの視点(調達、設計、物流、使用、廃棄 等)
    • エネルギー使用、燃料転換、設備更新
    • 排出への影響(直接・間接の捉え方は組織の境界と活動に依存)
    • 原材料調達(供給制約、代替材、輸送、外部提供プロセスの管理)

    【考慮例(組織の状況・利害関係者要求・リスク機会と接続する)】

     

    ISO 14001:2015には、気候変動の考慮を明確化する改正としてISO 14001:2015/Amd 1:2024Climate action changes)が発行され、その後ISO 14001:2026の発行に伴い当該Amd“Withdrawn(廃止)として整理されています。移行・運用は最新規格(ISO 14001:2026)を前提に検討することが適切です。


    5. ISO9001における対応(品質マネジメント)

    ISO 9001では、気候変動は「品質マネジメントシステムが意図した結果を達成すること」に影響し得る外部条件として整理します。

    【主な影響(例)】

    • 原材料供給の変動、輸送制約による調達リスク
    • 温湿度変動や災害による工程条件の変化(品質ばらつき、歩留まり低下)
    • 停電・操業停止等による納期遅延、顧客満足への影響

    【対応の実務ポイント】

    • 4.14.2の判断を、6.1のリスク及び機会、購買・外部提供プロセス管理、変更管理、事業継続に接続する
    • 「品質に影響する」という説明ができる形で、影響経路(供給、工程、設備、物流、外注)を整理する
    • 必要に応じて、供給者評価・監視、二重化、代替材評価、工程条件管理の強化に反映する

     

    ISO 9001:2015にも気候変動の考慮を明確化するISO 9001:2015/Amd 1:2024Climate action changes)が発行されています。また、ISOISO/FDIS 9001について「ISO 9001:201520269月に置き換える見込み」と明記しています(2026年時点の公開情報)。


    6. ISO45001における対応(労働安全衛生)

    ISO 45001では、気候変動は「労働者及び他の利害関係者に関するOH&Sリスク」に影響し得る外部条件として整理します。

    【主な影響(例)】

    • 高温作業環境(熱ストレス、作業時間・休憩・水分補給の管理)
    • 災害リスク(豪雨、台風、洪水、停電等による避難・復旧・安全確保)
    • 作業条件の変化(屋外作業、物流、現場工事、交代勤務 等)

    【対応の実務ポイント】

    • 4.14.2の判断を、危険源の特定、リスクアセスメント、緊急事態対応、変更管理、力量・教育に接続する
    • 「災害リスク」や「高温」など、作業実態に即してどの職務・工程に影響するかを明確化する
    • 必要に応じて、作業標準、設備・保護具、教育訓練、健康管理、協力会社管理に反映する

     

    ISO 45001:2018にもISO 45001:2018/Amd 1:2024Climate action changes)が発行されています。あわせて、次版に向けたISO/DIS 45001ISO上で開発中として公開されています(発行時期は承認状況に依存するため、現時点では未定)。


    7. 気候変動要求の規格上の解釈

    Annex SL追補における気候変動に関する要求は、表面的には簡潔である一方、その適用においては4.1および4.2の本来の意図に基づく解釈が重要となります。

    • 「関連する課題かどうかの決定」の意味(4.1
    • 利害関係者の要求としての位置付け(4.2
    • 既存要求の明確化としての理解
    • 「考慮」と「対応」の区別
    • 規格ごとの適用の考え方
    • 要求水準の整理

    ここでいう「決定」は、単なる有無判断ではなく、以下を踏まえた合理的な判断(説明可能性)を意味します。

    • 組織の目的、戦略、意図した結果との関係
    • 事業活動への影響(操業、品質、環境、OH&S 等)
    • 外部環境としての重要性(地域特性、供給構造、規制、顧客要求 等)

    気候変動が利害関係者の要求に関連する可能性が示されているため、以下の観点で要求・期待の有無を確認します。

    • 顧客要求(調達基準、報告・開示、仕様)
    • 規制・政策(法令、条例、行政指導、報告制度)
    • 市場(業界要求、取引条件、競争環境)

    ISO/IAFは、今回の追加は従来から求められている検討事項の明確化であることを強調しています。従って、基本は次の考え方となります。

      • 新しい仕組みを別建てで作るのではなく
      • 既存の分析・計画・運用・レビューに組み込む

    最も重要な点は、「考慮(検討・判断)」と「対応(施策実施)」は同義ではないことです。

    規格上、必須なのは

    • 検討すること
    • 関連性を判断すること
    • 判断を説明できること

    であり、具体的な対応内容は、組織の状況と利害関係者要求に基づく判断に委ねられます。

    気候変動は共通テーマですが、規格の目的に応じて具体化されます。

    • ISO 14001:環境影響・環境パフォーマンスの観点
    • ISO 9001:品質・供給安定性・顧客満足の観点
    • ISO 45001:労働安全衛生リスク・作業環境の観点

    規格が求める水準は、次に集約されます。

      • 気候変動を外部課題として認識している
      • 自組織にとっての関連性を判断している
      • 判断を説明できる(根拠がある)

    そのため、規格上ただちに

    • 排出管理の実施義務
    • 特定の削減活動の実施義務

    が一律に生じるわけではありません。重要なのは、「何を実施したか」だけでなく、「どのように判断し、既存の仕組みに反映したか」を説明できることです。


    8. まとめ

    候変動要求への対応の本質は、既存マネジメントシステムの中で適切に扱い、合理的な判断と説明可能性を確保することにあります。

    また、

    • ISO 14001:環境
    • ISO 9001:品質
    • ISO 45001:安全衛生

    それぞれの目的に応じた形で具体化される必要があります。
    最も重要なのは、組織として一貫した判断を行い、それを説明できる状態に整えることです。

     

    Nemkoは、組織の実態に即した、活用できるマネジメントシステムのための審査を心掛けています。

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