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    Jun 18, 2026

    【第3回】 気候変動はなぜマネジメントシステムで扱われるのか ― 実態から見る外部課題としての必然性 ―

    1. はじめに

    1回では、Annex SL追補(気候変動の考慮に関する追補)により、気候変動がISOマネジメントシステム規格における共通の外部課題として位置付けられたことを整理しました。

    また第2回では、その要求に対する実務上の対応(4.1「組織の状況」、4.2「利害関係者」、6.1「リスク及び機会」等の既存プロセスに統合して判断と説明可能性を確保する)について説明しました。

    本稿(最終回)では、なぜ今、気候変動がマネジメントシステムの中で扱われるようになったのかを、近年の観測・評価情報と企業活動への影響という観点から整理します。

     


    2. 気候変動は「例外的な異常」ではなく、経営前提を変える「常態変化」へ

    近年、気候変動は単なる環境問題にとどまらず、社会・経済の前提条件を変える常態変化として整理されつつあります。

    国連世界気象機関(WMO)は「State of the Global Climate 2024」において、2024年が観測史上最も高温の年であったこと、また全球平均気温が産業化以前(1850–1900年)に対して約1.55(不確かさ±0.13)高かったことを報告しています。

    加えて、WMO2025年についても「観測史上最も高温の年のグループに含まれ、データセットによって2位または3位」と整理しています(20232025年がいずれのデータセットでも最も高温の年に含まれる)。

    また、欧州のコペルニクス気候変動サービス(C3S)も、2024年が1850年以降の記録で最も高温の年であったこと、ならびに2024年の年平均が産業化以前に対して約1.6高かったこと等を公表しています。

    重要なのは、単年の記録更新そのものよりも、「高温の状態が複数年にわたり継続し、計画・設計・調達・労務などの前提条件を揺さぶる外部環境になっている」点です。

     


    3. 極端現象の増加は、リスクを「まれな例外」から「織り込み対象」へ変える

    気候変動の影響は平均気温の上昇だけではありません。企業活動にとっては、熱波、豪雨、干ばつなどの極端現象が、操業・物流・労働安全衛生・品質安定に影響する形で顕在化しやすい点が実務上の論点となります。

    日本に関しては、気象庁が2025年夏(68月)の日本の平均気温が統計開始(1898年)以降で最も高かったこと、また猛暑日を記録したアメダス地点数が統計比較可能な2010年以降で最も多かったこと等を報道発表として示しています。

    このような情報は、「想定外の単発事象」ではなく、「外部環境として継続的に検討し、リスク及び機会(6.1)に接続していくべき要因」としての性格を裏付ける材料になります。


    4. 企業活動への直接的影響(マネジメントシステム要求との接点)

    気候変動がマネジメントシステムの検討対象になる理由は、実務上の影響が分野横断で現れるためです。代表例を、品質(ISO 9001)、環境(ISO 14001)、労働安全衛生(ISO 45001)の観点で整理します。

    • サプライチェーン・物流への影響(品質・納期・BCPの論点)
    • 品質・供給の変動(一次産品・原材料の安定性)
    • 労働環境・労働安全衛生への影響(熱ストレスと生産性)

    干ばつや降水不足が水資源に影響し、運河通航や物流に制約を与える事例があります。パナマ運河庁は、流域降水不足等を背景として通航数等に関する制限・運用変更を示すAdvisory(通知)を発出しています。

    この種の制約は、納期遅延、調達リードタイムの変動、輸送コストの上昇などを通じて、品質マネジメントにおける外部課題およびリスクとして整理され得ます

    日本の公的評価情報として、環境省の「気候変動影響評価報告書(2020年)」に基づく適応情報プラットフォーム(NIES運用)では、気温上昇により米の品質が低下し、白未熟粒の増加等が確認されている旨が整理されています。

    これは、食品・農業に限らず、原材料の品質ばらつきや調達安定性を重視する産業にとって、品質リスク・供給リスクの増加として捉えられます。

    国際労働機関(ILO)は、暑熱(heat stress)が労働生産性に影響し得ることを示し、将来の労働損失見込み等を報告しています(「Working on a Warmer Planet」)。

    暑熱は、熱中症等の健康リスクのみならず、作業方法・休憩設計・力量・緊急時対応など、ISO 45001の運用要素と直結しやすい外部条件として整理できます。


    5. 気候変動の本質(マネジメントシステムで扱うべき理由の整理)

    上記の実態を踏まえると、気候変動は単一の環境トピックではなく、経営リスクを増幅し得る外部要因として、次の特徴を持ちます。

    • 分野横断的影響
    • 連鎖性
    • 判断責任(説明可能性)が重要

    環境(排出・資源・影響)、品質(供給・工程・納期)、安全衛生(暑熱・災害・作業環境)など複数領域に同時に影響し得る。

    供給制約や操業停止が、生産・品質・顧客影響へ波及し、利害関係者要求(顧客、規制当局、投資家等)とも結び付きやすい。

    「何か特定施策を必ず実施する」よりも、「自組織にとって関連する課題かどうか、どのように判断したか」を合理的に説明できる状態が求められる。

    この整理は、気候変動を4.1(外部課題)と4.2(利害関係者要求)に接続する必然性と整合します。


    6. なぜ「外部課題(4.2)」になるのか

    Annex SL4.1では、組織はマネジメントシステムの意図した結果に影響し得る外部課題を決定することが求められます。

    気候変動は、

    • グローバルに発生し
    • 個社では制御できない一方で
    • 供給、品質、安全衛生、法規制対応、顧客要求等に影響し得る

    という性質を持つため、外部課題として扱う条件に合致します。

    ここで重要なのは、ISO/IAF20242月のJoint Communiquéにおいて、気候変動を「4.1で関連する課題かどうかを決定する」こと、また「4.2で利害関係者が気候変動に関する要求事項を有している可能性がある」と示した点です。これは、新たな管理体系の導入ではなく、既存要求の中で気候変動を見落とさないよう明確化したもの、と説明されています。


    7. Annex SL要求との必然的な接続(共通構造に入った意味)

    ISOが気候変動を特定分野の規格だけでなく、Annex SL(共通構造)に関係付けて示した背景は、「環境問題だから」ではなく、「全マネジメント領域の意図した結果に影響し得る外部要因だから」と整理するのが妥当です。

    実務的には、

    • 4.1:外部課題としての関連性判断
    • 4.2:利害関係者要求としての確認
    • 6.1:リスク及び機会への統合
    • 運用・監視測定・内部監査・マネジメントレビュー:判断の妥当性と有効性の確認

    という既存の流れの中で扱われます。

    つまり要求の本質は、「新しい管理の追加」ではなく、「無視できない外部環境としての明確化(判断と説明可能性)」です。


    8. 本シリーズの総括

    本連載で整理した内容は以下の通りです。

    1回:気候変動は共通構造の中で扱われる外部課題として明確化された

    2回:対応は既存マネジメントの中で行い、判断と説明可能性を確保する

    3回(本稿):実態(観測・影響)から見て、外部課題として扱う必然性が高い


    まとめ

    気候変動要求の本質は、環境配慮の強化というよりも、経営環境の変化をマネジメントシステム上の外部課題として正面から捉え、合理的に判断し、説明できる状態にすることにあります。

    したがって重要なのは、特別な対策を一律に導入することではなく、自組織にとっての影響(品質・環境・安全衛生、供給、労務、利害関係者要求)を理解し、既存のマネジメントシステムの中で適切に位置付けることです。

     

    Nemkoは、組織の実態に即した、活用できるマネジメントシステムのための審査を心掛けています。

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