Jun 11, 2026
【第1回】ISO規格に「気候変動」が組み込まれた意味とは ― Annex SL追補(気候変動追補)とISO14001:2026発行を踏まえた最新動向 ―
書き込み: Nemko
1. はじめに
気候変動は、もはや環境分野に限定された課題ではなく、企業経営そのものに影響を与える重要テーマとなっています。
異常気象の頻発、サプライチェーンの不安定化、エネルギーコストの変動、さらには規制要求の強化や投資家・顧客からの説明責任の高まりにより、企業活動を取り巻くリスクおよび機会の構造は大きく変化しています。
このような背景のもと、国際標準化機構(ISO)と国際認定フォーラム(IAF)は、2024年2月に「マネジメントシステム規格(MSS)に気候変動の考慮を加える」ための追補(各規格へのAmendmentおよび共通構造への反映)を公表しました。追補で追加された文言は、MSSの共通要求事項である4.1(組織の状況)と4.2(利害関係者のニーズ及び期待)に紐づけられ、気候変動が“見落とされないようにする”意図が明確化されています(後述)。 [ISO/IAF Joint Communiqué(2024-02-22)より。]
さらに、環境マネジメントシステム規格ISO 14001は、2026年4月15日にISO 14001:2026として改訂版が発行されました。
本稿では、これらの動向を踏まえ、気候変動がISOマネジメントシステムにおいてどのように位置付けられ、実務上どのような対応が求められるのかを整理します。
2. Annex SL追補における気候変動の位置付け
2026年時点での要点は、次のとおりです。
- 気候変動は、マネジメントシステムの有効性(意図した結果の達成)に影響し得る外部課題として、共通要求事項の文脈で明示された
- 組織の状況(4.1)および利害関係者(4.2)の検討において、気候変動を“関連する課題かどうか判断する”ことが求められる
- ISOおよびIAFは、この追加を「既存要求事項の意図を変えない(要求の趣旨は従来どおり)」一方で、「重要な外部要因として今、確実に考慮させるための明確化」と説明している
したがって今回の変更は、単に“新しい章や詳細要求が増えた”というよりも、既存の「組織の状況/利害関係者」の枠組みの中で、気候変動を確実に扱うことを明文化したものと捉えるのが適切です。
3. Annex SL追補の内容
追補で追加された文言は簡潔ですが、ポイントが明確です。
【対象条項】
- 4.1 組織の状況
- 4.2 利害関係者のニーズ及び期待
【追加された文言(ISO/IAF Joint Communiquéで示された内容)】
4.1
『組織は、気候変動が関連する課題であるかどうかを決定しなければならない。』
4.2
『注記:関連する利害関係者は、気候変動に関する要求事項を有している可能性がある。』
(4.2の追加は“要求事項本文”ではなく“NOTE(注記)”として示されている点に留意)
【解釈上のポイント】
- 新たな条項(章立て)は追加されていない
- 追加文言は短いが、4.1では「関連性の判断」が明確に求められる
- 4.2では「利害関係者要求として気候変動要求が存在し得る」ことが注意喚起されている
- ISO/IAFは、4.1・4.2の“要求意図そのものは変わらない”としつつ、気候変動を外部要因として確実に考慮させる狙いを説明している
なお、本変更は、ISOおよびIAFにより、既存要求事項の明確化(clarification)と位置付けられています。
4. Annex SL構造との関係(なぜ影響範囲が大きいのか)
Annex SL(Harmonized Structure)は、ISOマネジメントシステム規格の共通基盤です。共通の章構成・用語・コア要求事項を整合させ、複数規格の統合運用(IMS)を行いやすくするための枠組みです(ISO/IEC Directives上の共通構造として運用)。
今回のポイントは、個別規格の“解釈ガイド”ではなく、共通要求事項(4.1/4.2)に直接関係する形で、気候変動を確実に検討させるメッセージが入ったことです。これにより、品質(ISO 9001)、環境(ISO 14001)、労働安全衛生(ISO 45001)など分野が異なっても、「組織の状況/利害関係者の検討の中で、気候変動の関連性判断を行う」という論点が共通化されます。
【今回の変更の特徴】
気候変動は個別規格ではなく、Annex SL自体に追加されています。
そのため、
- 全規格に同時適用
- 改訂を待たず適用
- 新規規格にも反映
という特徴を持ちます。
この点からも、今回の変更は特定分野の要求ではなく、共通構造の中で扱うべき事項の明確化であるといえます。
5. 気候変動要求の位置付け(Annex SLに基づく共通構造の適用)
気候変動に関する要求は、特定の規格において新たに追加されたものではなく、Annex SLに基づく共通構造の中で取り扱われる外部課題として整理されたものです。
Annex SLの追補により、気候変動は、以下の中で検討すべき対象として明示されました。
- 組織の状況
- 利害関係者の要求
ここで重要なのは、“気候変動が常に重大課題である”と一律に決めつけることではなく、「自組織の意図した結果(マネジメントシステムの有効性)に照らして関連性を判断する」点です。ISO/IAFは、気候変動が各マネジメントシステムに与える影響は分野により異なるとも述べています(例:品質と労働安全衛生では影響の出方が異なる)。
- 自組織にとって気候変動が「関連する課題」かどうかの判断(4.1)
- 利害関係者要求として、気候変動に関する要求が存在する可能性の確認(4.2)
- 判断の妥当性を説明できる状態(根拠の明確化)
各規格においては、この枠組みに基づき、気候変動がそれぞれの目的に応じて扱われます。
例えばISO14001では、環境マネジメントの観点から、
- リスク及び機会
- 環境目標
- 運用管理
といった既存の要求事項の中で気候変動が考慮されることになります。
一方で、ISO9001やISO45001においては、それぞれの目的に応じて、
- 品質への影響(供給の不安定化など)
- 労働環境への影響(高温、災害など)
- 共通構造に基づく外部課題として導入され
- 各規格の目的に応じて具体的に扱われる
といった観点から整理されることが想定されます。
このように気候変動は、
という位置付けになります。
したがって重要なのは、規格間の違いではなく、共通構造の中でどのように扱われているかを理解すること
です。
6. 各規格における位置付けの違い
|
規格 |
主な影響 |
|
ISO9001 |
供給安定性、品質リスク、変更管理(供給制約・災害等による品質への影響) |
|
ISO14001 |
環境パフォーマンス、環境側面、リスク及び機会、環境目標(気候変動・資源効率等) |
|
ISO45001 |
作業環境(高温・災害等)、労働安全衛生リスク、緊急事態対応(極端気象による安全衛生影響) |
(注)上記は“想定例”であり、実際には事業特性、立地、サプライチェーン、利害関係者要求等に基づいて決定します。
7. 2026年時点の改訂状況
- ISO 14001:ISO 14001:2026が2026年4月15日に発行
- ISO 9001:ISO/FDIS 9001(最終ドラフト段階)が公表され、「2026年9月にISO 9001:2015を置き換える見込み」とISOが明記
- ISO 45001:ISO/DIS 45001(DIS:照会段階)が開発中(2026年4月にDIS登録の履歴がISOサイトに記載)。
(注)発行時期は最終投票・承認状況に依存します。
8. 実務への影響
【最低限おさえるべきこと】
- 気候変動の関連性評価(4.1:関連する課題かどうかの判断)
- 判断根拠の明確化(なぜ関連/なぜ非関連かを説明できる状態)
【関連すると判断した場合】
- リスク及び機会への反映(事業継続、供給制約、法規制、顧客要求等)
- 方針・目標・計画への反映(環境目標、品質目標、OH&S目的・計画等)
- 運用管理/変更管理/緊急事態対応への反映(サプライチェーン、拠点運用、災害・高温対策等)
【審査の視点】
- 形式的に「検討した」と記載しているだけでなく、事業実態に照らした判断になっているか
- 利害関係者要求(顧客、規制当局、投資家、地域社会等)に気候変動要求が含まれる可能性を踏まえ、確認プロセスがあるか
9. まとめ
- Annex SL追補(気候変動追補)およびISO 14001:2026の発行により、
- 気候変動は、マネジメントシステムの有効性に影響し得る外部課題として、共通要求事項の文脈で明確化された
- 組織は、4.1(組織の状況)で「気候変動が関連する課題か」を判断し、4.2(利害関係者)で要求が存在し得ることを踏まえて確認することが求められる
- 重要なのは“規格間の違い”そのものではなく、共通構造(4.1/4.2)での判断を、各規格の目的に沿って具体化することである
Nemkoは、組織の実態に即した、活用できるマネジメントシステムのための審査を心掛けています。
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